2、「手描き原稿」と「デジタル原稿」。
はじめに、
漫画を描いているひとは、初めてGペンを握ったときに絶望しませんでしたか?
「鉛筆だと上手くかけるのに、Gペンだと上手くかけない。Gペンで描く絵が本当の実力か〜。」と
でも、私は同人誌を始めて出したときにさらに絶望をしました。
「Gペンで描いた絵が本当の実力」なんてのは嘘っぱちで、まだもう一段階あったのです。
私のしていた勘違いとは、「手元にあるGペンで描いた原稿」の上手さが「俺様の絵の上手さだーー!!」というものでした。
しかし、読者の視点にとって考えると、漫画において絵の上手さについては「印刷された状態の絵」が評価の対象です。
みんなは、「手描きとデジタルどっちが好き?」
(スキャンしてるから忠実性はある程度そこなってます。)
手描き(あえて、スクリーントーンを一切使いませんでした。) | デジタル(あえて、極端にベタベタ塗ってます。) |
「印刷されたもの」が読者の評価対象と知ると、面白い事実が見えてきます。
よくある議論、 「手描き」と「デジタル」のどちらが好きか、いろんな人に聞いてみました。
すると、生原稿を見せると好まれるのは圧倒的に手描きでした。 しかし、印刷を通したものを見せると圧倒的にデジタルでした。 |
もちろん、絵柄とか、場面にもよるでしょうが、印刷までのリレーを考えたとき「デジタル」のほうが綺麗な印刷できてしまい、
印刷物として吐き出されたときには、手描き原稿を追い抜いちゃう結果となりました。
当然 、パソコンと印刷を連携させる知識もしらずに、デタラメにパソコン使ってたらだめでしょうから
個人的には 「DTP&印刷しくみ事典」とか「同人誌印刷品質向上計画」を読んでみました。
他に面白い結果としては
若い読者ほど、デジタルに関する抵抗感がないという結果も分かりました。 |
これは、少年誌・少女マンガにとっては重要なデータかもしれません。
低年齢な女の子のほうがデジタルに対して抵抗感がさらに少ない気がします。
確かに、よくよく考えれば、手元にある商業誌においても、読者が評価するのは先生方の直筆生原稿ではありません。
印刷された漫画本をみて、「この絵は上手い」とか「この絵は下手」とか読者が決めるわけです。
大抵の場合、絵を描く人にとっては直筆の生原稿のほうが上手く見える気がします。
しかし、印刷をされると手描きの細かい線が消えたり、濃いトーンや網掛けは潰れたりします。
日本の印刷技術は世界でもスゴイときいたことがありますが(お金とか有価証券の印刷なんかいい例)、それでも
印刷技術上の問題やコストの問題から、生原稿と全く同じものができることはありません。
ましてやエライ大先生の描く原稿だと、なかなか再現できないんじゃないでしょうか。
完全に全く同じもの再現するには、同じ素材(印刷用のインク・紙ではなく、漫画原稿に使ったインク・紙)で、
同じ筆圧で、同じ時間、同じ湿度や温度の部屋でつくらないと無理だと思います。 ヘリクツかもしれませんが、構成している原子が違うんだから完全に同じの無理だろうってことです。
笑い話と結論。
あなたは漫画家だったとします。
そこで、 有名な漫画アドバイザーに、
『「手描き」と「デジタル」どちらがいいんでしょうか?』 |
と相談したとします。
「ふむふむ。」と漫画アドバイザーは、「手描きの直筆!生原稿用紙」と「デジタルの印刷出力された原稿」を真剣に見くらべています。
そこで漫画アドバイザーが、うれしそうに、開口一番。
「やっぱり、手描きじゃなくっちゃ、暖かさがないねぇ。手描きのほうが綺麗だねぇ。マンガってのはそもそもねぇ・・・」 |
なんていうアドバイスをしたら、それはアドバイスではなく 個人的な趣味をいっているだけです。 (笑)
マンガの読者としては、もっともやめてもらいたい判断方法です。
作り手チームで、自己満足したいだけならいいんですけど、人に読んでもらいたい作品を目指しているのなら論外です。
私は、結論(手描きがいい)という趣味に対してイチャンモンをつけてるわけではありません。
手描きだろうが、デジタルだろうが面白いものは面白いですから 。
ただ、以下の理由からアドバイスの導き方がまずいと思うのです。
@アドバイザーは、読者の手に届くのは印刷物であるということが分かっておらず、作り手側しか見られない生原稿を見て判断を下している。 A 市場(読者)の調査を一切無視して、自分の感情論で話している。 |
一つ目の理由
手描き「生原稿」 と 、デジタル「印刷物」 では比べられません。
手描き印刷物 と デジタル印刷物 で比べないとダメです。
生原稿は∞dpiだからこそ、印刷で再現できない部分がたくさんあるから綺麗に見えることがあります。
しかし、印刷するとそれほど綺麗ではなくなることがあります。
つまり 、比べるなら、「手描きが印刷されたもの」と「デジタルが印刷されたもの」を比べないと意味がありません。
つまり、読者の手に届くときに一番上手い絵を描きたい!!と考えるなら、当然、印刷会社とのリレーを考えなければなりません。
だから、印刷されたときに、読者に届くものを見て、どっちが綺麗かで「手描き」か「デジタル」かを決めればいいんじゃないかと思います。
二つ目の理由
作り手のチームの主観でマンガとはかくあるべきだというのは、読者からしてみれば全く無意味なことです。
何が描きたいのかというのも重要だけれど 、
「読者にとって読みやすくなるのはどちらか?」 「読者にとって、おもしろい表現を見せられるのはどちらか?」 「読者は何を望んでいるか?」 |
というのがズッポリ抜けていると読者に見放されます。
読者に聞き込み調査をするなり、恣意性のないアンケート結果を分析するなりすることが重要です。
最後に
私は「手描き」と「デジタル」どっちがいいなんて判決を下したいわけではありません。(笑)
結論としてはケースバイケースだろうからどっちでもいいと思います。
しかし、 判断基準を読者におくという精神を忘れないで欲しい、いや「自分は忘れないぞーー」という自分自身へプレッシャーをかけるために文章を書いただけです。
どっちが印刷リレーのゴールまでいったときに、読者が読みやすいものが出るかが重要です。
だから 判断基準は読者が目にする印刷物を見るべきで、ターゲットにしている読者が「手描き」がいいと判断したらなら、「手描き」がいいんだと思います。
読者が「デジタル」がいいと判断したら、「デジタル」がいいんだと思います。
何十年も手描きでやっている人だと極端に手描きに特化しているため、手描きのほうが綺麗でしょうが、
手描き暦3年、パソコン暦3年とイーブンに訓練をつんだ人の絵だと、おそらくデジタル原稿に軍配があがるんじゃないでしょうか。
手描きの味を持ちつつ、デジタルの美しい表現も織り交ぜることができて、さらに印刷にストレートにだせる気がします。
当然、CG技術(ソフト・使い手)も進歩・変化していくので表現の幅も広がるかもしれません。
ただそれが面白い漫画につながってるかどうかは、そのつど読者にきいてみないと分かりません。